「トランプ政権による貿易外交について」

2024年11月5日、投開票の結果、大統領に返り咲きが決まったドナルド・トランプ氏。今回のコラムではトランプ氏の貿易に対する姿勢から今後の国際物流および国際情勢はどのような道を歩んでいくのかを考えていきたいと思います。

トランプ氏の政治理念の根幹として、2017年の第一次政権時代から変わらない米国第一主義が貿易においても多大な影響を与えると推測されます。原則として他国に対する関税を10~25%引き上げ、この政策により他国製品の市場拡大が停滞することが懸念されます。アメリカの国内産業保護と税収増加の観点から見ると、米国第一主義の理にかなっている政策です。

ただ関税額が増えると、元を取るためにアメリカ国内での販売価格も高くなります。その結果、今まで以上に市場における日本製品の優位性を他国と比較してより明確にする工夫が求められます。明確に秀でている強みがない限り日本製品の売上が伸び悩み、苦戦を強いられることが予想されるでしょう。

特にアメリカは中国に対して関税政策で強硬姿勢を崩さず、60%の関税をかけるとも言われています。これに対し中国も何らかの形で経済的報復をすると、一つの物事をきっかけとして全体に大きな影響を及ぼす“バタフライエフェクト”のように世界の物流は停滞するでしょう。

では米中の貿易摩擦で今後起こり得る例を見ていきます。
大手自動車メーカーテスラのCEOイーロン・マスク氏は熱心なトランプ支持者であり、応援演説にも出たほどです。マスク氏は中国のEV企業は非常に優秀だと述べており、このままでは米国企業は中国企業に圧倒されることを懸念しています。実際にEUでは中国製EVへの対策として2024年10月に中国製EVへ最大45%の関税を課すことを決定しています。

トランプ氏が中国による市場の支配を深刻なものだと判断した場合、大胆な貿易改革を行い貿易摩擦の激化は避けられないでしょう。トランプ氏当選により、アメリカは物流を外交の切り札として利用する機会が今後増えると思われます。具体的には中国本土と台湾を巡る問題に関しても、台湾有事の際に中国に更なる関税をかける意思を表示しているため、物流は強力な外交手段として機能している事がわかります。それと同時に物流が両国にとって見逃せないほどの大きな存在であると分かります。

トランプ氏の関税引き上げは日本に限らず多くの国にとって多大な影響を与えますが、具体的に発言と行動にどれくらいの乖離が生じるかは蓋を開けてみて数年後にならないと分からない状況です。

日本としては関税率引き上げを最小限に抑えてほしいところであり、ドル高円安の今こそが輸出産業にとって有利な状況の中、アメリカ市場での成功が早急に望まれる局面でしょう。(A.T.)